1. 欠場
羽生自身、
「スケートの場合、怪我が治ればいいってものではないですから。」と
今までとは異なる返答をしているので、
羽生がこれから進んで行く道は
今のところ保留とするしかない。
そこで羽生自身の進退はひとまず置いておくとして、
今回羽生がFSで挑んだ『Origin 』について
気になった点を書いて行こう。
2. 『ニジンスキーに捧ぐ』
今季羽生は、
「ニジンスキー」を「プルシェンコ」に置き換えて、
『Origin 』を滑っている。
私は、芸術点で審査員全員の満点を叩き出した
プルシェンコの『ニジンスキー 〜』を繰り返し視聴した。
初見からプルシェンコの動きに違和感を覚える箇所があった。
次には彼の速いステップに圧倒されると同時に
またそぐわない何かがへばりついて来る。
それは凡庸な私の生理を引きちぎった。
吐き気がした。
随分調べて、
プルシェンコの意図した
『ニジンスキーに捧ぐ』が何物であったかを知る。
ステップに入る前に取った特有のポーズは、
ニジンスキーが振り付けた『牧神』のポーズだった。
続くステップも、
ニジンスキーの描く『牧神』の動きと見て取れる。
プルシェンコは、
4分半の間に数回、ニジンスキーと同じ薔薇のポーズを取る。
最後から2番目の薔薇のポーズで
プルシェンコはうっとりと笑う。自然にー。無意識にー。
そこから一気に高速回転のスピンへとなだれ込み、
演じ終わりも薔薇のポーズで決める。
人生の後半を、
狂気に引き摺られ余儀なく過ごすこととなったニジンスキーは
最期の眠りについた時、
ベッドで薔薇のポーズを取っていたと言う。
プルシェンコの才能は、ニジンスキーの人生後半を
象徴的な薔薇のポーズを用い、
再現してみせたのだ。
いや、折々に見せるポーズが象徴的であっただけで、
プルシェンコの『ニジンスキーに捧ぐ』は、
全編ニジンスキーの翻弄された人生を再現したものだ。
親に捨てられ、
バレエで開花したものの、
経営者の男色に弄ばれ、
第1次世界大戦での恐怖をきっかけに
狂気の人生を終えるニジンスキー。
天才と呼ばれた男の、美しさよりもおぞましさが先に立つ人生。
ーーーを、
もう1人の天才スケーターが
スケートリンクの上で再現したのが、
『ニジンスキーに捧ぐ』である。
3. エフゲニー・プルシェンコ
彼のニジンスキーに対する興味は、
相当なものだと思われる。
ニジンスキーに関する書籍・写真、
それらをプルシェンコは少年?時代から
しっかりと頭に入れ続けていたに違いない。
この『ニジンスキーに捧ぐ』に臨むに際し、
友人のギタリストの曲を使用しているのもそうだ。
思い入れの深い物語は、
身近な曲で、が再現し易い。