1.羽生結弦と「SEIMEI」
羽生結弦は「SEIMEI」と名付けられたプログラムを以って、「フィギュアスケートグランプリファイナルバルセロナ」を制し、「GPシリーズNHK杯」で世界最高の322.40点をたたき出した。
その時に使われたのが映画『陰陽師Ⅱ』の楽曲である。
さて、半年後に迫った平昌オリンピックにおいて、この同じ楽曲を使用することがこの度発表された。
一部には
「新鮮味に欠けるのではないか?」など案ずる声も聞かれるが、
私は、納得とともにこの選択を最良のものとして受け止めた。
2.ゆづくんは人間じゃない!?
「まるでコミックの世界の人物のようだ。」羽生に関するこの表現は言い得て妙である。
羽生結弦は、その容姿といい等身といい、まさしくコミックの世界の人物である。
他のスケーター達が、生身の人間をあらわにしつつ滑るのに対して、羽生は、天使が、妖精が、1個のキャラクターが、氷上に登場したかように舞う。
それでは、羽生結弦に最もふさわしいキャラクターとは一体何なのであろうか?
3.羽生結弦と「Hope & Legacy」
「世界選手権2017」において羽生結弦は『Hope & Legacy』、『View of Silence』、『Asian Dream Song』という久石譲メドレーを完璧に滑りこなし金メダルを獲得した。
その演技中、彼は水の精であり木の精であり、まさしく妖精であった。そう、ゆづくんは妖精なのである。ゆづくんにぴったりのキャラクターは一見して妖精だと誰しもが思う。
ところが、妖精 ー 羽生結弦の演技を繰り返し視聴していた2016年の私は、不意に「SEIMEI」の羽生を見たくなったのである。曲を聞きたくなった。平安貴族の狩衣を模した衣装をまとう彼を見たくなったのである。
それほど「SEIMEI」は鮮烈であった。個性的であった。魅力的であった。
妖精でありながら、どこか男っぽいゆづくん。貴族のように品のよいゆづくん。
陰陽師 ―― 戦う貴族。羽生結弦にこれほどマッチするキャラクターはいないのではないか。
4、『陰陽師II』の楽曲
さて『陰陽師II』の楽曲は非常にドラマティックだ。
冒頭、澄み切った横笛の音が響き渡ると同時に、特有のポーズを解いて羽生は平安時代の地に立つ。
全体が太鼓のリズムで刻まれるこの楽曲は、素人の私にも非常に滑り易いのではないかと見て取れる。つまり、ジャンプなどのタイミングがつかみ易いのではないかということである。
また、リズムが明確に刻まれていることで、観客も手拍子を打ち易いという利点もある。
現にバルセロナで行われたグランプリファイナルでは、主旋律が流れる2度とも、見事に揃った観客の手拍子は、羽生の滑りを後押ししてした。
バルセロナで羽生は、中盤から終盤にかけて流れる悲哀を含んだ琴や笛の音に合わせて、ジャンプを決めまくった。あたかも安部晴明の呪術が決まるごとくにー。
全てのジャンプを跳び終わると直ぐに、2度目の主旋律が流れ出す。もう安心とばかりに観客が手拍子を打つ中、羽生は華麗なステップを踏み、氷に片手を乗せた低い姿勢で弧を描いてみせ、イナバウワーを披露する。第2、第3の大きな見せ場である。そうして歓声とともにスピンに入り、歓喜の中最後のポーズで終了してみせる。
安部晴明は、強敵を倒し、今私達の喝采の中にいる。それは映画のエンディングでも見ているかのようであった。
5. 成長した安部晴明
2016年、「Hope & Legacy」に感動しつつ「SEIMEI」を振り返っていた私は、一抹の不安に襲われていた。
羽生は既に「SEIMEI」で、最高の楽曲と、自分を模するキャラクターに出会ってしまったのではないかとー。
ー と考えていたところに今回の発表である。
それでいい。
私達は晴明を見たいのだ。再び晴明を。成長した晴明をー。
あの「SEIMEI」の続編を観たいのだ。
「スター・ウォーズ」の続編をどんなに待ちわびたことか。私達は今、その時と同じ心境にある。
羽生結弦、
次はどのような敵を倒すのか。
どのような仕草で平安時代を生きるのか。
素晴らしい続編を期待している。