1. 平昌オリンピック SP
平昌オリンピックでのSP、羽生結弦は素晴らしかった。
調整期間 僅か1ヶ月にして、4回転ジャンプの勘を取り戻していた。
高さと跳び幅のある羽生のジャンプは美しい。
着氷し、反対側の脚を流れに沿って水平に回転させる。
跳び始めから跳び終わりまでを完璧に演じきるジャンプ。
羽生結弦にしか跳べないジャンプ。
その演技の後で行われたインタビューにおいて私は、羽生結弦の強さを改めて感じ取ることになった。
2. 劇場型人生
さてその前に、羽生の特徴は生まれ持った劇場型人生にある。
彼知らずして、羽生の人生は、羽生にドラマチックな場面を用意する。
ソチオリンピックSPでの鮮烈なデビュー
公式練習中の激突事件から、顎を縫ってのNHK杯での勝利。
そうして今回の平昌オリンピックである。
絶体絶命の場面が、羽生の人生には幾たびか用意される。
平々凡々と生きている私には訪れたこともない、今後訪れることもないであろう 劇的な場面だ。
敢えて語弊を恐れずに言うならば、
羽生結弦はそういう場面を乗り切る …… というシチュエーションを得意とするのではないだろうか。
王子様然とした風貌を持つ羽生結弦には、絶体絶命の持つ切なさがよく似合う。
私達は、崖っぷちに立たされる美しい王子様の姿に胸を痛める。
『ああ、どうしよう ……。』胸が痛くなるわ。
でも彼は王子様だから、絶体絶命から救い出すことも得意とするのである。
それが王子様の使命なんだもの。
しかし物語の中の王子様とは大きく異なる点が一点だけある。
羽生が救い出すのは、眠れる森の美女でも毒リンゴを齧った白雪姫でもない。
羽生は羽生結弦自身を救い出すのである。
3. シチュエーション作りのうまさ
話をSP後のインタビューに戻そう。
羽生結弦にこのような質問が投げかけられた時だ。
――どうして久しぶりの試合、オリンピックでこんな演技ができたんですか?
僕はオリンピックを知っていますし、大きいこと言うなと言われるかもしれないですけど。
やっぱり僕は元、今は「元」って言えばいいのかな。元オリンピックチャンピオンなので、やっぱその、リベンジしたい...リベンジしたいって、オリンピックチャンピオンと言った後にリベンジしたいっていうのはおかしいですけど(笑)。
自分にとっては(ソチ五輪の)フリーのミスが、やはりここまで4年間頑張って強くなったひとつの原因だと思っているので、また明日に向けてリベンジしたいなという気持ちがとにかく強いです。
羽生王子が闘う相手は常に自分である。
敢えて、自分に設定する。
自分の為に闘う。
孤高の闘いである。
自己研鑽の極致とも言える。
それは、怪獣や悪者と戦ってお姫様を助け出すよりもずっとカッコいい。
誰も悪者は作らず、誰のためでもなく、ひたすら自身を高めるが故に闘うのだから ー。
またこれは、絶対王者と呼ばれる羽生にしか口にできない言葉なのだから ー 。