1. オリンピック
ーオリンピックには魔物がいるー
オリンピックが開催される度に、実感を込めながら人々はそう口にして来た。
しかし、
ーオリンピックには神もいるー
オリンピックで金メダルを手にする者は、オリンピックの神が降り立った者に他ならない。
2. オリンピックの神
語弊を恐れずに言うならば、陸上や水泳のように基本の動きがシンプルな競技において、神が降り立つ場面は少ない。
それも、陸上のボルト・水泳のイアン・ソープなど秀でた力量を持つ選手が出場する試合においては、神による番狂わせが起こる可能性は低い。
神がその威力を発揮するのは、繊細なテクニックを駆使する競技 ー それ故些細な何かが大きく作用してしまう競技 ー それ故精神のあり方に大きな影響を受け易い競技 ー においてである。
そういった意味でフィギュアスケートは、神の支配を受け続けて来た競技といえよう。
3. バンクーバーオリンピックの神
バンクーバーオリンピックの女子フィギュアスケートで、神は浅田真央には降り立たなかった。
フィギュアスケートでは、SPよりもFSの方が得点が高いのはご存知の通りである。
最初のトリプルアクセルを決める。
その後も、身体の柔軟性、バランスに勝る浅田真央のポージングは、1つ1つが全て芸術であった。
滑るギリシャ彫刻。
それは重々しい「鐘」にぴたりとマッチした。素晴らしい芸術作品が彫り上げられつつあった。
4. 神よ
しかし、そこで神は浅田から離れた。
いや、最初から浅田には降り立っていなかったのであろう。
浅田は簡単なジャンプを飛び損ない、何もない所で躓いた。
後はもう浅田が振り返った通り、よく分からないままあっという間に演技は終わった。
それは直前に演技したキムヨナが、FSもいわゆるノーミスで滑走したからかもしれない。
SPでの、キムヨナのボンドガールが余りにも魅力的かつ印象的であったからかもしれない。
けれど、FSに関しては、ミスさえしなければ、採点方法がどうであろうと浅田の方が優っていた。